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XPS超入門(1)〜名称問題と横軸問題〜

XPSに初めて接したとき、まず最初に疑問に思うことについて「XPS超入門」として時折忘れた頃に取り上げて解説して行きたいと思っています。
その第一弾として今回の(1)では「XPSなのか、ESCAなのか」についてと「XPSスペクトルの横軸はなぜ逆向きなのか」の2点について考えてみましたので、よろしければご一読ください。
こんなことを取り上げて解説して欲しいというようなご要望がありましたら、どうか遠慮なく弊社ウェブサイトのホームページ右上にある「お問い合わせ」からご連絡ください。

はじめに

XPSに初めて接したとき、最初に疑問に思うこととして「XPSなのか、ESCAなのか」と「スペクトルの横軸はなぜ逆向きなのか」の2点がまず挙げられると思います。これらについて解説してみます。

ESCA?それともXPS?

XPS(エックスピーエス)は”X-ray Photoelectron Spectroscopy”の略で、直訳すると「X線光電子分光法(えっくすせんこうでんしぶんこうほう)」となります。ESCA(エスカ)の方は”Electron Spectroscopy for Chemical Analysis”の略で、こちらは直訳すると「化学分析のための電子分光法」となります。
実際上は両方とも同じ意味で用いられる場合が多いですが、厳密にはXPSはあくまでもXを物質に照射することにより発生する光電子を分析するという、比較的限定的な意味合いになります。これに対してESCAの方は、命名者であるSiegbahn(シーグバーン)の意図は別にして言葉の意味だけで考えると、電子分光して化学分析する方法すべてを指すことになり、より包括的な意味合いになります。
ちなみに「光電子」というのは光を当てることにより物質から放出される電子のことで、このような現象は光電効果と呼ばれますが、これにより発生する電子は、電子であることに何ら変わりはないのですが、発生原因が光だということで特別に「光電子」と呼ぶことになっています。X線はもちろん光の一種で単に可視光よりも波長が短いだけですので、X線を当てて出てくる電子も「光電子」と呼ばれます。
余談ですが、かのアルベルト・アインシュタインはこの光電効果の研究で1921年のノーベル物理学賞を受賞しています。

ちょっと寄り道:
慣れないと電子に対して「分光」という言葉を使うことに違和感があるかも知れません。もちろん「分光」は元々は文字どおり光を分けるという意味でした。分光する器械である分光器のもっとも身近な例はプリズムでしょうか。可視光がプリズムを通過する際に、屈折率が色ごとに異なることから、色つまり光のエネルギーごとに異なる角度でプリズムから放出されますが、これを「分光」と言ったのが始まりです。
電子の場合はプリズムは使えませんが、"アナライザー”という装置で電場を使ってプリズムと同じように電子をエネルギーごとに選り分けますので、電子ですけれども「分電子」とは呼ばずに「分光」という用語を使うのが慣例になっています。

電子を分光する方法としてはXPSの他には

  • AES (エーイーエス、Auger Electron Spectroscopy;オージェ電子分光法)
    ちなみにオージェというのは物理学者の名前ですが、この現象の発見者は別の人です
  • UPS (ユーピーエス、Ultra-violet Photoelectron Spectroscopy;紫外光電子分光法)
  • EELS (イールス、Electron Energy Loss Spectroscopy;電子エネルギー損失分光法)
  • REELS (リールス、Reflected Electron Energy Loss Spectroscopy;反射電子エネルギー損失分光法)

などがありますが、言葉どおりに解釈するとこれらはすべて「ESCAではあるがXPSではない」ということになります。
つまり厳密にはXPSはESCAの「真部分集合」あるいは「十分条件」なのですが、通常はXPS=ESCAとして使われていますので、あまり堅く考えなくて良いと思います。
これは筆者だけの感覚かもしれませんが、最近はESCAと呼ぶ人が少なくなり、XPSの方が多数派になっているような気がしますので、ここではXPSで進めて行きます。

スペクトルの横軸問題

グラフXPSのデータを初めて見たときに最も驚くのは横軸が普通とは逆向きになっていること、つまり横軸の数字は左端が一番大きくて、右端が一番小さくなっていることだと思います。(図1参照)
筆者はもうかれこれウン十年も(詳細はヒ・ミ・ツ♡)XPSのスペクトルを眺めて楽しんで(?)いますが、それでもときどきヘンな感じがすることがあります。
この逆向きの横軸には必ず”Binding Energy”(バインディングエネルギー)という表記があるはずです。”Binding Energy”は日本語では通常「結合エネルギー」と呼ばれています。(「束縛エネルギー」と呼ぶ方もいらっしゃいますが、少数派だと思います。)「結合エネルギー」とは、原子の中心にある原子核と、その周りに存在する電子との結合エネルギーのことで、もう少し平たく表現すると「電子が原子核に引っ張られる力の大きさ」というような意味になります。
横軸の右端は”0”ですので、この力がゼロ、つまり原子核に引っ張られる力がゼロ、ということは電子は何の制約もなく勢いよく原子から飛び出して来られということですので、電子のエネルギーが最も高い状態で観測されることになります。
この「電子のエネルギー」という視点を横軸に追加すると図2の”観測された電子のエネルギー”という横軸になり、実はこれがXPS装置が実際に計測している本来の横軸です。この”装置本来の横軸”は皆さんお馴染みの右へ行くにしたがって大きくなる普通の向きの横軸です。
この「観測された電子のエネルギー」と「結合エネルギー」には式1の関係があります。

「観測された電子のエネルギー」=「照射したX線のエネルギー」-「結合エネルギー」 式1

では何故わざわざ逆向きの”Binding Energy”の軸で表すのでしょうか。それは式1の「照射したX線のエネルギー」が装置や測定条件の設定により変化するからです。
「照射したX線のエネルギー」が変わると、それに正比例して「観測された電子のエネルギー」も変わりますので、X線のエネルギーが変わるとデータ同士の比較が非常にややこしいことになってしまいます。
X線のエネルギーは近年の装置ではAl-Kα線(あるみにうむけいあるふぁせん)の1486.6eVが普通ですが、少し前の装置ではMg-Kα線の1253.6eVを使うのが一般的でした。さらにもっと最近では5414.7eV のCr-Kα線が使用できる装置も登場しているというように、技術の進歩や分析目的によりX線のエネルギーは変わってしまいます。
式1の中でX線のエネルギーの影響を受けないのは「結合エネルギー」だけですので、式1を変形した式2にしたがってこれを横軸にすれば測定条件に影響されない普遍的な横軸が得られ、どんなエネルギーのX線で測定したとしてもデータ間の比較ができることになります。

「結合エネルギー」=「照射したX線のエネルギー」-「観測された電子のエネルギー」 式2

このように横軸は通常とは逆向きになってしまいますが、データ間の比較が容易になるため、XPSデータの横軸には「結合エネルギー」が使用されています。

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