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XPSのケミカルシフトと価数(原子価)

PETのC1sピークXPS(X線光電子分光法)では定性・定量分析が行えることの他に、最も大きな特徴として化学状態の分析も可能ということが挙げられます。
XPSの解説で頻繁に見かけるPET(polyethylene terephthalate)の場合、炭素1sのピークは図1のようにケミカルシフトの大きさが異なる主に3つのピークからなるスペクトルとして観測されます。結合エネルギー(Binding Energy)の大きい順にO-C=O結合、C-O結合、C-C/C-H結合の炭素それぞれからのピークとなります。

ここで、
【結合エネルギー(Binding Energy)】 =【照射したX線のエネルギー】-【観測された光電子のエネルギー】  (式1) 

ですので、結合エネルギーが大きいということは、試料から放出された光電子のエネルギーが小さいということ、つまり電子と原子核との結合が強く、これを振り切って飛び出して来るのにエネルギーを消費したということなります。
酸素との結合のないC-C/C-Hが最もエネルギーを失わずに光電子が飛び出して来られ、C-OからO-C=Oへと酸素との結合の数が増えるほどエネルギーを大きく失いながら光電子が飛び出してきていることになります。このような光電子がエネルギーを失う大きさ、つまりケミカルシフトの大きさの違いは直感的には電気陰性度によって説明可能のように思われます。
すなわち、酸素は電気陰性度が大きいため、化合物を生成する際に電子を引き寄せてマイナスの電荷を帯びますので、酸素と化合する相手(この場合は炭素)は逆にプラスに帯電することになります。プラスに帯電した原子から電子が飛び出してくるには、本来の原子核との結合力に加えてこのプラスの帯電で引っ張られる力も振り切って来ないといけませんので、より大きくエネルギーを失った状態で飛び出してくることになり、式1から結合エネルギーとしては大きい値で観測されることになります。当然、化合する相手の酸素の数が増えるほどよりプラスに帯電しますので、結合エネルギーは益々大きく観測されることになります。

ここで代表的な金属の酸化物について、酸化の価数とケミカルシフトの大きさの関係を見てみましょう。表1に示すように、各金属とも酸化の価数が増えるにしたがってケミカルシフト量も大きくなって行くのがわかります。前述した電気陰性度あるいは価数での説明がうまくあてはまる例だと思います。

■ 表1 代表的な金属とその酸化物ピークの結合エネルギー
元素 ピーク 金属(0価) +2価 +3価 +4価
Ti 2p3/2 454.1 455.0 (+0.9) 459.0 (+4.9)
Fe 2p3/2 707.0 709.3 (+2.3) 710.9 (+3.9)
Ni 2p3/2 852.7 853.8 (+1.1) 856.5 (+3.8)

(単位:eV カッコ内は金属のピークとのエネルギー差)

ただし、実はこれらは恣意的に集めた金属で、電気陰性度(価数)で説明できそうなものだけを表にまとめたものです。 今度は表2を見てください。こちらも意図的に集めた金属ですが、今度は電気陰性度(価数)だけでは説明できないものです。まず銅のピーク(Cu2p3/2)ですが、面白いことに+1価の酸化物の方が0価の金属よりも結合エネルギーが低く観測されます。つまり、+1価になった方が0価のときよりも電子が飛び出しやすくなるということです。鉛では+4価のピークの方が+2価のピークよりも結合エネルギーが低くなっています。

■ 表2 価数とケミカルシフトが逆転する代表的な金属とその酸化物の結合エネルギー
元素 ピーク 金属(0価) +1価 +2価 +3価 +4価
Co 2p3/2 778.3 780.4 (+2.1) 780.0 (+1.7)
Cu 2p3/2 932.7 932.5 (-0.2) 933.6 (+0.9)
Pb 4f7/2 136.9 138.8 (+1.9) 137.5 (+0.6)

(単位:eV カッコ内は金属のピークとのエネルギー差)

このように単に電気陰性度だけではなく、励起状態からの緩和過程をはじめとする様々な物理現象を考慮に入れないとケミカルシフトを説明できないところもXPSの深くて面白いところです。

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