表面分析からこんなことがわかります

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はじめに

高電子移動度トランジスタとして使用されている、AlGaN/GaN HEMTエピ構造の解析は、PCOR-SIMSを用いることで、各層中の不純物濃度測定に加えて、試料表層部のAlGaNバリア層、及びAlGaNバッファ層中の様々なAlとGaの組成比率と各層の膜厚を正確に求めることが可能です。
以下にPCOR-SIMSを用いたAlGaN/GaN HEMTエピ構造の解析事例をご紹介します。
尚、PCOR-SIMSに関する詳細は下記リンクページをご参考下さい。
http://www.nanoscience.co.jp/knowledge/SIMS/knowledge01.html

PCOR-SIMSによるSi基板上GaN HEMT試料のAlGaNバッファ層の分析

AlGaN/GaN HFETsは活発な研究の対象となっており、高周波帯域における高電圧、高出力動作の用途として生産され始めています。類似のGaAs系デバイスと比較して、GaNは速いピーク電子速度、優れた熱安定性、広いバンドギャップを有していることから、マイクロ波パワーデバイスのチャネル材料にとても適しています。更にAlGaN/GaN HFETsの性能には、1013/cm2のシートキャリア濃度を有する二次元電子ガス(2DEG)を形成する能力があります。これらのデバイスは、一般的に高電子移動度トランジスタ(HEMTs)と呼ばれます。

製造における関心時は2DEG層を成長する基板にあります。GaN基板上の成長は、GaN基板と成長層間で正確な格子整合が得られるので理想的です。このことは、基板から2DEGを分離するために成長する、デバイスの活性領域の欠陥を回避するためのGaNバッファ層を非常に厚くする必要がないことを意味します。残念ながら現状では、コストの観点から、GaN基板ではデバイスを商業的に実現可能にするために十分に大きなサイズの基板を用いて成長させることができません。そのために代替の基板を使用する必要があります。 SiC単結晶基板については、その電気的および熱伝導特性からの理由もありますが、主な理由はGaNとの格子不整合率が3%とよいことです。しかし、それは同様にとても高価になります。サファイア基板は安価ですが、熱伝導性が悪く(高出力デバイスでは欠点になります)、高い格子不整合率(13%)を有しています。従って、すでに確立された製造技術とプロセス技術に関する膨大な基盤のあるシリコンが可能性のある基板として多くの注目を集めています。しかし、SiはGaNに対して格子整合性が悪く、Si基板上に成長したGaN層には多くの欠陥が生じます。そのために、Si基板のプロセスでは、2DEGを形成する領域の欠陥密度を低減するために、Si基板と2DEGを形成する層の間に、主にAlGaNから構成される厚いバッファ層を必要とします。この例は、図1および図2に示されています。

■ 図1
図

図1は直径150mmのSiウェハ上に成長させたGaN HEMT構造全体のPCOR-SIMSによる深さプロファイルを示しています。 (この図の中の2DEG領域は、表面近傍に存在するために検出できていませんが、後述致します。)この例では、バッファ層はAlN層から始まります。この材料は、下地Siと良い格子整合性ではありませんが、基板から上の層を分離するための絶縁層になっています。 また、このAlN層は、引き続き低いAlレベルのAlGaN層の連続層を成長させるためのシード層としても機能します。Al含有量の減少は、図2の左下のTEM写真にこの試料の写真が示されているように、GaNバリア層を成長するまでに、欠陥密度を許容できるレベルに低下させます。PCOR-SIMSによる解析では、様々なAlとGaの組成比率と膜厚を正確に求めることができます。

図1は、GaNバリア層の下半分に炭素がドープされていることを示しています。この炭素ドーピングは、AlGaNバッファにおける意図しないn型不純物(図に示すように主にSiとO)を補償し、破壊電界強度の増大に影響します。また、この図はウェハ端部におけるGaN部分の炭素ドーピング量が、中心部に比べ10倍高い濃度であることを示しています。このことから、150mmのウェハ上の異なる位置では、バリア層の電界緩和特性が異なり影響が生じることが予想されます。一方、バッファ層のC含有量と厚さについては、ウエハの中心部と端部で類似していることがわかります。バリア層中の炭素レベル(並びにSiと酸素レベル)は、過度に高いレベルになるとデバイスのリークにつながるので重要になります。

2DEGの近傍では、炭素ドーピングが垂直リーク電流を促進し、2DEGチャネル電子のキャリア密度およびキャリア移動度の低下を引き起こすことがあり、オン抵抗と電流コラプスの原因になることが報告されています。これらのすべての事柄は、デバイスの性能と信頼性にとって有害なものです。しかしながら、2DEGとデバイス特性に炭素ドーピングは有害な特性があるにもかかわらず、活性層(AlNのスパイクとAlGaNバリア層)中の残留炭素レベルを扱っているレポートもあります。これは、おそらくこの表面近傍領域の炭素濃度の測定が、バッファ層の奥深くに由来する貫通転位に起因する表面ピットによって大きく阻害されるためと思われます。(図2参照)

■ 図2
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炭素は、空気中に露出された試料表面に吸着し、ピット全体がスパッタされるまでSIMSのスパッタリングプロセスによって完全に除去されることはありません。この見かけ上検出される深い炭素プロファイルは、2DEG領域内の本来の重要な分布を完全に不明瞭にしています。
この問題を回避するために、EAGでは、このように炭素プロファイル(図3)の深いテールを排除し、表面汚染Cの大部分を除去する独自の表面洗浄手順を開発しました。この手法によって2DEG直上のAlGaNバリア層内だけでなく、2DEG直下のAlNスパイクにおいても真のC濃度を測定することができます。

■ 図3
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バッファ層には、Fe、Mgをドープすることができます。これらは、SIMSで非常に低い検出下限で測定することができます(図4)。GaNバリア層の内部のFeプロファイルのピークに注意して下さい。このピークはウェハのエッジ部には存在していないので、基板全体に均一な層を成長させる際の別の問題を指摘しています。

■ 図4
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また、GaNバリア層における非金属不純物レベルを制御することが重要です。このデバイスはドーパントが存在しない状態で機能するため、2DEG直下GaN中では、できるだけ低いSiのレベルにすることが重要です。図5に示されるように、EAGでは約5 e 14 atom/ cm3のSiの検出限界を得ることができます。この値は、図にみられる2DEG下の2 e 15 atom/ cm 3のSiレベルを把握するのに十分低い値です。

図5はGaNバリア層におけるH不純物のレベルを示しています。Hはデバイスの信頼性に悪影響を与えるため、できる限り低いHレベルに維持されます。しかし、この例ではバリア層の炭素ドープ部分におけるHレベルが少し上昇していることがわかります。これは炭素ドーピングに使用される原料ガスから生じていると思われます。

■ 図5
図

この構造では、表面に近い領域がデバイス内の電流の流れを作る二次元電子ガスが形成される場所です。薄い上部ドープAlGaN層とアンドープGaN層間の伝導帯の不連続性により2DEG が形成され、電子が蓄積された量子井戸が形成されます。このアクティブ領域は極めて薄いため(20-30nm)、細心の注意を払ったSIMSにより正確に測定することができます。図6は、HEMTの2DEG形成領域におけるPCOR-SIMSプロファイルを示したものです。C, H, O 及びSi不純物と同時に、最上層のAlGaNの位置と濃度を示すAlが表示されています。

■ 図6
図

AlGaN層はこの構造の最表面にあるので、常に空気中に露出されています。そのため表面汚染の影響を最小化するための措置をとることが重要です。図6では、試料表面に存在する炭素をEAGで開発した独自の洗浄方法で除去することで、試料表面から15nmの領域のAlGaN層中のC濃度が1-2e17atoms/cm3レベルで存在することを示しています。 また、図6は別の重要な情報も示しています。それはAlGaNバリア層の厚さのことで、この層に生じるゲート電位は2DEGの電子密度をコントロールする役割を持ち、それによってデバイスのコンダクタンスが制御されます。図6の中のリニアプロットにこの層の厚さが示されています。

図7は、図6と類似のプロファイルの一部についてリニアスケールで表示し、同じ領域の断面TEM写真の上に重ねたものです。AlのプロファイルはAlNデルタ層の位置を示しています。この構造は、AlGaN層のドナーによるクーロン散乱を緩和することにより2DEGのキャリア移動度を向上させるための構造です。TEMとSIMSを重ねた図から、AlNデルタ層の幅がAlGaN層の一定濃度の上側にみられるAlプロファイルの半値幅にほぼ一致していることがわかります。しかしながら、図3にみられる表面ピットによって生じたGaN側に伸びる裾の影響によって、それがわかりにくくなっています。

■ 図7
図

Cプロファイルについても、正確な界面(Alプロファイルによって示された位置 )に対するドーピング領域を示すためにプロットされています。TEMではこのCを検出することができません。EDXやEELSでもこのCは検出することはできません。
また、各深さ位置における表面電位の影響を反映した、表面導電性を推測することが可能なプロファイル(赤色)を示します。

バリア層内部のホールの蓄積によって導電性が減少し、その領域を通過した後に再び導電性が回復する深さについてこのデータから知ることができます。
以上、本アプリケーションノートでは、データの各深さについて補正が行われるSIMS(PCOR-SIMS)がGaN HEMTs構造における正確な主成分濃度とドーパント濃度を決めるための有効な方法であり、エピタキシャル層の成長条件の最適化や故障解析の方法として利用できることを示しました。

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